皇統問題を巡って時折(又はしばしば)奇妙な意見を見掛けることがある。
例えば―。「皇室問題は当事者の考えも重要だ。
明治以降の皇室典範では、皇位継承者を男系男子のみに限定し、
皇族女子は一般男子と結婚すれば、皇籍を離脱することになっている。
このルールを急に変えると、当事者の女性皇族は、大変お困りになる。
現行法のもとで生まれ育った当事者には、原則として現在のルールを
続けるしかないのではないか」
(所功氏、東京新聞5月24日付)先ず、引用文の少し前に「私案」として「愛子内親王は天皇の
お子さまだから直宮家(じきみやけ)とする」と書かれている。
敬宮(としのみや、愛子内親王)殿下には、ご結婚後も「直宮家」を
設けて皇室に残って戴くことを、提案しているのだ。しかし、敬宮殿下も勿論「現行法のもとで生まれ育った当事者」でいらっしゃる。
ならば当然、論理の筋を通せば「原則として現在のルールを続けるしかない
のではないか」。つまり、ご結婚と共に「皇籍を離脱することになっている」はずだ。
皇籍を離脱されたら、もはや「直宮家」を設けることはできない。
自分の提案を、提案した直後に自ら否定する意図が、理解しにくい。次に、「皇族女子」の方々が「現在のルール」通りに皆様、
ご結婚によって次々と国民の仲間入りをされた場合、天皇陛下の「次」の
世代は悠仁親王殿下“たったお1人”だけになる。そのことが、悠仁殿下のご結婚そのものを至難にしてしまう。
「皇室の存続に貢献できる道を探る」と言いながら、
それとは正反対の主張をしている動機も、よく分からない。更に、皇室典範を今のまま放置すれば皇室それ自体の存続が
困難になるのは明らか。なので、典範を改正して女性天皇・女性宮家
・女系天皇を可能する方向性が、小泉純一郎内閣当時、既に政府レベルの
議論の俎上(そじょう)に載っている。私自身も、内閣に設けられた「皇室典範に関する有識者会議」
のヒアリングに応じた。
同会議の正式な報告書(平成17年)には「女子や女系の皇族への
皇位継承資格の拡大の検討」が示されている。
まさか「当事者」の方々がその事実をご存じないとは思えない。
ならばこの先、皇室が行き詰まることが明らかな「現在のルール」に、
何も手を着けないか。
それとも、皇位の安定継承を目指して、有識者会議が示した方向に進むか。「当事者」の皆様にとっては、ご自身の未来が“引き裂かれた”ままに
なっているのが実情だ。
従って、「ルールを急に変えると、当事者の女性皇族は、大変お困りになる」
というのは事実ではあるまい。
むしろ、“引き裂かれた”未来が、政治の無為無策と国民の無関心のせいで、
いつまでもそのままになっている現在の状況こそ、「大変お困りになる」
原因だろう。にも拘らず、「当事者の考えも重要」との名目で、問題解決を更に
先延ばしして、逆に当事者の皆様を“一層”苦しめるような意見が
出てくる理由が、不可解だ。【高森明勅公式サイト】
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